ウユニ塩湖 (Bolivia)
ウユニの街を出たらすぐそこにはウユニ塩湖がある、わけではない。
まずは22km北西へ。
気軽に歩いていけるような距離ではない。
路肩舗装路じゃん。
小さな街が現れたら、西へ5kmほど未舗装路を進む。
この街を「ウユニ」にしてもらった方が近くて楽だな。
ようやく出現。
南米でもトップクラスの観光地だが、ゲートがあるわけでもなく、入場料を支払うわけでもなく、フリー。
雨季である1~3月に鏡張りが見れる、というのを一応信じて一応期待して来てみたのだが、カラッカラじゃねえか。
鏡張りが見れないのなら他の塩湖と変わりない。
ちょっと覗いてみたらもういい、舗装路に戻るか。
しかし、塩湖内を縦横無尽に走る轍が思ってたよりもしっかりしていて、自転車走行できそうな感じだ。
この轍はオフラインマップにも反映されており、塩湖を突っ切れるっぽい。
せっかくだし、走ってみっか。
ということで、想定していなかったがウユニ塩湖縦走開始。
面積は、琵琶湖の15倍。
この広大な面積で、高低差はわずか50cm。
標高3600mにして、世界で最も平らな土地。
雨季に冠水すると、波ひとつ立たない巨大な鏡となる。
さすがに動物はいないし植物も生えない。
微生物も生息してないのかな。
とにかく一面塩、やはり死の世界なのか。
ゴミがまったくないのは感心。
意図的なポイ捨ては論外だが、ついうっかり物を手放して風に飛ばされたらもう回収不能、そういうゴミがあっても不思議じゃないのだが、ない。
轍には車のオイルっぽいシミが点々と見られる。
ここも、膨大なリチウムが眠っている。
海を奪われた悲劇の国ボリビアだが、実は資源大国。
でも資源はただあるだけじゃ金にならない。
ボリビアには、リチウムを掘削する技術も資本もない。
日本を含む外国資本がその開発に乗り出し争奪戦を繰り広げる、21世紀のグレートゲームの舞台ともなりうる。
雨季は雨季なのか、あちこちで局地的な雨雲が見られる。
すぐ東の山にはずっと雨雲が居座っている。
なんかおかしい、進路がずれている。
割としっかりした広い轍に沿って進んでいたので安心していたのだが、オフラインマップと照らし合わせると、どうやらいつの間にか違う道を進んでいる。
違う道でも、これだけ広い轍なら何らかの村か街とつながっていると考えるのが自然だが、どう見てもこの方向には何もない。
しばし悩んだ結果、轍から離脱して、今日の目的地としていた村まで最短で向かうことにした。
つまり、道のない素のままの塩地を走る。
マクロではスーパーフラットなウユニ塩湖だが、ミクロではデコボコでバンピー。
自転車がスムーズに走れるようなコンディションにはなっていない。
進路は西。
目印は夕日と山の形。
背後では、先程の東の雨雲が巨大化し、迫り来る。
背後に雨雲があるということは当然、向かい風。
一応乗ってこいでいるのだが、徒歩と大差ないスピード、徒歩よりはマシかなぐらい。
たいていこういう時は、状況は刻一刻と悪化していくもの。
風は強さを増し、急ぎたいのにジャマをしてくる。
塩がぬかるみだした。
相手は自然、ずっと同じ状況が続くわけではない。
ぬかるむともう乗っていられず、押して歩く。
最悪。
雪道走行で氷の塊と化す方がよっぽどマシだ。
塩も、雪だるま式に膨れ上がっていく。
砂のように風に吹かれることもなく、雪のように熱で溶けることもなく、走れば走るほど増大し結晶化していく。
やっぱこんなとこ来なきゃよかったか。
雷が近づいてきた。
いや雷はヤバイって。
よりによってこんなところでとっ捕まったら、高確率で狙い撃ちされる。
なんたってここでは僕が一番背が高い、というか唯一の突起した物体だから。
雨が降り出したら走行中止してキャンプという選択肢もあったが、テントも雷の標的となる。
いろいろあるけど、落雷死というのは考えたことなかったな。
塩漬けで良好な保存状態のまま、しばらくは発見されることもないだろう。
轍から離脱せずそのまま突き進むという判断をしていたら、今頃あの嵐に飲み込まれていた。
そして、日没。
日没前に村に到着するのはムリというのはわかっていたが、それでも明るいうちに距離を稼いでおいた方がいい。
こういう時こそ、あせらず平常心。
落ち着いて深呼吸。
ふと振り返ると、背後の雷雲が燃えていた。
日没直前の一瞬の煌き。
この世の終わりのような始まりのような瞬間。
写真にはうまく写らなかったが、雷雲の中にかすかに虹も。
日没後も数十分は明るく、周囲の状況が見える。
進行方向である西の空もしばらくは明るい。
遠くに一筋の灯火が見えた。
村だ。
まもなく、暗闇。
風はやんだ。
雷雲も引っ込んでくれた。
まあ7km/hの自転車も捕まえられないぐらいだから、移動タイプではなく居座りタイプの雷雲だな。
ぬかるみエリアからも脱し、再び乗ってこげるようになった。
状況は持ち直したが、それでもこういう時は1kmがとてつもなく長く感じる。
けっこう進んだかなと思ってメーターを見ると、500mぐらいしか進んでない。
実際、1kmというのは長い距離だ。
人力にこだわって旅をしているのも、こういう距離感を肌で感じたいから、しんどいけど。
しんどい時はまったく関係ない考えごとをしてみるのが定石だが、今はヘッドランプで照らした路面に障害物がないかの確認、そしてまた進路がずれてはいないか立ち止まって確認、散漫ではいられない。
村の明かりは少しずつ近づいているような気もするが、まだ遠い。
長い長い暗闇走行。
20時半、ヒリラという小さな村に到着。
道を間違えていなければ、特に問題なく日没前にここに着いている予定だった。
1軒の宿あり。
暗くて営業してなさそうに見えたが、明かりがついている窓を見つけ、ノック。
夜間の突然の来訪に警戒されることもなく、若い女性が出てきて、泊まれる、と。
あ~、良かった。
宿の庭に水道とホースあり、ラッキー。
真っ先に洗車させてもらう。
我が愛車は見るに耐えないほど、塩漬け状態となっていた。
指で触ると、すでに硬く結晶化している。
水をたっぷりかけて、細かいところまで入念に洗い流す。
水が貴重な土地でジャブジャブ洗うのは申し訳ないが、こちらも生活がかかっているので。
地元の人も洗車ぐらいはするだろう。
今ここで洗車できず一晩でも放置することになっていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
鉄のみならず、アルミであれステンレスであれ、金属を塩漬けにして放置というのは絶対良くない。
バッグも塩まみれ。
オルトリーブのバッグは接続部がプラスティックと金属バネで、いやどんな素材であれ塩漬け放置は良くない、これも入念に洗い流した。
靴も塩まみれ、靴の中も大量の塩。
全部洗い流して、いやースッキリした。
助かった助かった。
Salinas de Garci Mendoza, Bolivia
12833km (Total 149527km)