ボルガン→ムルン (Mongolia)

未舗装エリアを抜けて、ボルガンという街。

多数の宿があるが、どこも無人、電話番号だけが貼られている。
嫌なパターン。
ただでさえ電話嫌いなのに、英語が通じないとわかっている相手に電話するなんてダルすぎる。
案の定まったく通じない、いや言葉がわからなくても電話してきたってことは泊まりたいってことなんだからこっち来いや、と思うのだが、どうにも埒が明かず。

もう1軒行ってみると、無人だが鍵は開いていて、レセプションがある。
料金表が貼られており、最安の部屋で80000トゥグルグ(3643円)。
こんないかにも気が利かなそうな宿で、ずいぶんと強気だな。

通りすがりの人が僕の状況を察してくれたようで、「あそこにホテルがあるよ」と指さして教えてくれた。
また嫌な予感。
貧しい国ではあるある、中身はろくなサービスもないだろうに、うわべだけの外観は立派にしつらえた高級ホテル。
一応行って聞いてみたら、166000トゥグルグ(7566円)。

1軒のホステルがある。
昨今は、きわめてストレスフルな労働者の宿のせいでホステルというものを忌避する傾向にある。
特に今は未舗装疲れを癒やして、そして思いっ切り洗濯物を干したいところなので、個室が望ましい。
でももうしゃあない、最後の手段。

やはり無人。
電話してみたが、やはり英語通じない。
このビルにはMobiComの店舗があり、店の中の奥にこのホステルの管理人がいるらしいことがわかった。
MobiComが運営しているホステルなのかな。

ちなみにMobiComは、KDDIの子会社。
かれらのボスは日本人であり、僕が日本人だと知るとかれらの態度が若干変わったような気がしなくもなかった。

管理人は、たどたどしいが英語を話せる。
たどたどしくても何でもいい、意思の疎通がとれるのなら。

予想に反して、立派じゃないか。

ドミトリーだが他に客はおらず、実質個室。
25000トゥグルグ(1138円)。

これはアタリの宿。
文句ないと言いたいところだが、水まわりがどうしようもなく悪い。
シャワーも洗面も、わざとせき止めてるんですかってぐらい、水を出すとすぐさま洪水になる。

シャワーは中国製の電気温水機、一応チョロチョロとお湯が出る。
未舗装で汚れきった身体と衣類を洗い流し、ドロドロの茶色い水が排出された。

僕は意図的にヒゲをのばすことはないのだが、数日キャンプが続くとヒゲ面になっている。
鏡を見ると、いつの間にかヒゲもだいぶ白髪混じりになっている。
ずいぶんと歳をとったものだ。

管理人にレストランの場所を教わり、行ってみた。
レストランの女性従業員はとても冷たい。
入店してもまるで相手にされず、こちらから注文を試みると、不機嫌そうに何か言い、僕が言葉を理解できないのもおかまいなく、そのまま放置。
「今は営業してねえんだよ見りゃわかるだろ出てけバカ」とでも言われたのかな、そんな怒られるようなことを僕はしたのだろうか。

お隣のロシアでも、レストランはとても不親切でわかりづらく、よそ者にとって難易度が高い。
ダメな店はすぐさま淘汰される資本主義社会で生まれ育った者が、こういった社会主義テイストの店に入り込むと、なかなか惨めな思いをさせられる。

別の店に行ってみると、なんとか話を聞いてくれるおばちゃんがいて、なんとか注文できた。

ヒツジを期待していたのだが、出てきたのはビーフ。

14600トゥグルグ(664円)。
6年前の記録によると、「1食5000~8000トゥグルグ(225~360円)、モンゴルでは自炊する気しない」と書かれている。

2泊した。
買い出し以外は一歩も外に出ず。

ホステルは無人と思いきや、夜になってモンゴル人のグループ客がやって来て、隣のドミトリーに宿泊した。
旅行者ではなさそうだし、労働者という感じでもない。
素性はわからぬが、夜通し騒いでうるさくて眠れなかった。

始まった、向かい風。
偏西風。
未舗装よりペース落ちる。

アジアには、世界の人口の60%が集中している。
他の地域の人口をすべて足し合わせてもアジアより少ない、という超過密地帯だ。
それを覆すたった1ヶ国の極端な例外が、ここモンゴル。
日本の4倍の面積に、人口わずか345万人。
人口密度の低さは世界1位。

水は温まりにくく冷えにくい。
陸は温まりやすく冷えやすい。
海から遠く離れた内陸地は、夏暑くて冬寒い大陸性気候。

海からの湿った風はモンゴルまでは届かず、北方からはシベリア高気圧の寒気が流れ込み、巨大な盆地ともいえるモンゴルには冷たい空気がたまり続ける。
こんな呪われた立地のモンゴルは乾燥した極寒地となり、耕作に適した土地はほとんどない。

それでも人々は、古くから遊牧というスタイルを選択し、生き抜いてきた。

古代にユーラシア大陸南部で文明の礎を築いた農耕民たちは、その後北方からの遊牧民による度重なる侵略にトラウマを刻まれる歴史を歩むこととなった。
遊牧民をモンスター化させたのは、他でもないこの過酷な気候。
遊牧民が分布するユーラシアの乾燥地帯は「破壊力の源」とも呼ばれ、その脅威は13世紀にピークに達し、モンゴル帝国となって世界を恐怖のドン底に陥れた。

過酷な気候だったら、アメリカ大陸にもオーストラリア大陸にもアフリカ大陸にもあるだろう。
しかし中世ランドパワーの時代に、強さに直結したのは馬の存在であった。
誰よりも馬を乗りこなす遊牧民が、最強の騎馬民族となった。
そして馬は、ユーラシア大陸が原産地。
馬が存在しない他の大陸では、こういったことは起こり得なかった。

現在、過酷な気候と環境の変化により、困窮した遊牧民が首都ウランバートルに逃げ込み、一極集中が止まらない。
多くの遊牧民が移動式住居ゲルをそのままウランバートルに持ち込んで居住し、地面を掘って糞尿を溜め込み地下水が汚染され、石炭で暖をとることで大気汚染が世界最悪レベル、深刻な健康被害を引き起こしている。
他に類を見ないほどのプリウス率も、大気汚染緩和のため。

久々の、橋の下。
案の定フンだらけだが、なんとかスペースをつくれた。

明け方、イヌどもがテントに気づいたようで、ギャンギャン騒ぎ始めた。
もしかしたら僕はいびきをかいていたのかもしれない。
キャンプにおいても、イヌはやっかいな存在。
囲まれてテントを咬まれたりしないよう、眠いけど戦闘の準備。
しばし息をひそめて様子をうかがうと、おとなしくなった。
モンゴルのイヌは、それほどアグレッシブではない。

さすが舗装道路、時折現れる街はそこそこの規模。
スーパーあり、カード払い可。
電波あり。
マップ上には「HOTEL」と書かれていても、つぶれていたり、そんな建物自体が存在しなかったりで、宿泊は期待できない。
泊まれたとしても、またシャワーなし水道なしトイレなしだったらと考えると、キャンプした方がいい。

雪。

向かい風。
もうこぐこともできず、押して歩く。

吹雪の中を歩いていると、時々プリウスが止まって声をかけてくれる。
さすがに僕が外国人だというのはわかるようで、英語を話せるマダムだったりする。
声をかけてくれるだけでもありがたい。
「乗ってく?」なんて言ってくれるが、もちろんそれはお断り、そもそもプリウスに自転車は積めないでしょう。

皆さん、雪と寒さで僕のことを心配してくれているようだが、問題は雪でも寒さでもなく風向きだ、と説明しても自転車に乗らない人にはとんと理解できぬらしい。

レインウェアやバッグは、日本で買いそろえたものが今も防水性をキープしているが、靴は防水でもすぐダメになる。
雪なら大丈夫というわけでもなく、路面が濡れているだけで靴に浸水してくる。

たまたま現れた廃屋で、いったんコーヒー休憩。

キャンプ地探し。
ちょうど良さ気な廃墟、いや失礼、建設中の建物が現れた。
こっそり忍び込もうとしたら、またイヌどもが騒ぎ出した。

パタゴニアなんかもそうだが、どこでもキャンプできそうな広大な大地に限って、そう簡単ではない。
モンゴルでは遊牧民の目もあり、特にかれらは視力が良さそう、そこらにテントを張ったりしたらすぐにバレるだろう。
私有地と自然の土地の境界も、ここではよくわからん。
住民税とか固定資産税とかあるのかな。

森林が現れた。
自然の森ではなく植林っぽいが、進入。
誰にも見つからないぐらい奥へ。

ここならイヌっころも来るまい。

意外に日は長く、日没は19:45。
日が沈む頃、ようやく雪はやんだ。
翌朝にブレーキやギアが凍りついているとやっかいなので、今のうちに雪を振り払っておく。

雪上キャンプはいつ以来かな。
これぐらい冷え込めば、水浴びしなくてもそれほど不快感はない。

朝、-9℃。

春ですね。

路面凍結してたらやべえな、と案じていたのだが、見事に乾いてる。

靴も靴下も雪で濡れてしまい、一夜にして靴も靴下もガチガチに凍ってしまった。
レジ袋を靴下代わりに。

こういう時、下りだと全身が凍結してしまうが、この日の出だしは登り。
登りなら体温を上昇させられる。

風が吹くのは、だいたい朝10時~日没まで。
穏やかな早朝のうちになるべく距離を稼いでおきたい。

あれっ、いきなり雪が消失。

この辺は降らなかったのかな。






時々、遊牧民にからまれる。
そっちからからんできておいて、無言で僕を見つめるだけだったり、ジェスチャーも独特すぎて不可解。
似た顔をしてるのに、遠く隔たれた存在。

ドリンクをくれたドライバーもいた。

ポツポツと点在するゲル。

イヌどもが、めざとく僕に気づいてギャンギャン吠えだす。
ただ吠えるだけのもいれば、追いかけてくるのもいる。
モンゴルのイヌは、軽く威嚇してやるだけですぐにおとなしくなる。
そこまでエキサイトしないのは、縄張りから道路まで距離があるせいかな。

結局、安全確実なのは橋の下。
風も防げる。

街から離れたところでは、電波はない。
僕のSIMは30日35GB、1日1GB使ってもいい計算。
キャンプするような場所ではネットはつながらないので、この調子だと全然使い切れず余りそうだ。


アップダウン+向かい風。
帰り道には追い風になるはず。
辛抱辛抱。




この日は連続60kmの登り。
勾配はキツくはなく、風の影響の方が大きい。
長い長い登りが終わり、ようやく下れると思っても、重力より風。

これを下りきれば、街だ。


Hatgal, Mongolia

33170km (Total 169864km)



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