ハクル→ドゥバ (Saudi Arabia)

紅海。

正確には紅海北東部のアカバ湾。
シナイ半島をはさんで北西部にスエズ湾がある。

対岸はエジプト、シナイ半島。

2012年はエジプトからサウジアラビアを見ながら走っていた。
当時はサウジアラビアを走れる日が来るとは思ってなかったな。

流入河川がないため塩分濃度が高い。
波はなく、いつも穏やか。

国境近くの街ハクルを発ってから45kmほど南下した頃。
このまま海沿いを南下していくつもりだったのだが、この先は関係者以外進入禁止だということを複数のドライバーから言われた。
計画都市NEOM、とりわけそのメインとなる超未来都市THE LINEの建設エリアの関係らしい。
そういったことは前もって看板にでもデカデカと書いておいてほしいものだ。
少し内陸の山道がメインハイウェイとなっており、いったんハクルに戻ってから出直すしかない。
せっかく気持ち良く走っていたのにな。

しょっちゅう車が止まり、声をかけてくれたり冷たいドリンクを差し入れてくれたりする。

往復90kmムダに走らされたのは癪だけど、皆フレンドリーでスマイリーだ。

ハクルに戻り、今日はもうストップ。
地元民から教わったこの街の最安宿、Andalus Furnished Apartment。

100リヤル(3956円)。
エアコンあり。
冷蔵庫あり。
Wi-Fiなし。
トイレットペーパーなし。
古くてボロい。

ほぼ英語でこなせたヨルダンとは違い、多くのサウジアラビア人は英語はあいさつ程度のベーシックで、会話は難しい。

人口3200万人のうちサウジアラビア人は約6割、4割が外国人労働者。

外国人労働者はインド人、パキスタン人、バングラデシュ人など南アジア系が非常に多く、かれらは英語を話せるが、けっこうメチャクチャな英語なのでノリでなんとか通じ合う感じ。

クレジットカードの普及度は高い。
地方の小さな売店でもカード払い可。
ATMもそこそこの街ならふつうにあるっぽい。

大型スーパーは少数だが、そこらにあるミニスーパーでも肉や野菜が売っていて補給に困ることはない。

どこもかしこも男男男。
入国してから女性というものをまだ2人しか目撃していない。
その2人とも目以外は完全黒衣装で覆われていた。

山道ハイウェイへ。

予報によると、この日から最高気温が30℃を下回る。
ようやく夏が終わるのか。

パトカーが止まり、水をいただいた。

ポリスはしばしスマホをいじって、翻訳アプリでも見たのか、日本語で「コンニチハ!」、「ガンバレ!」と言ってくれた。

標高1000m。
幸い、緩やかで楽だった。
風が若干さわやか。

不毛の地になんか生えてる。

スイカ!?

割ってみたら、全然スイカじゃないし食べられそうもない。

いったい1日何回車が止まるだろう。
対向車もわざわざUターンして来る。
「乗って行け」と言われることも多いが、いつも通りこれは丁重にお断りする。
水と食はありがたくいただく。

トラックドライバーからカレー弁当をいただいた。
い~香りがプンプン、ガマンできず路肩に座っていただき。

うまい、本場インドの味だ。

「施し」の文化が強く根付いているのを感じさせられる。
でも今までだってそうだった。
過酷な土地ほど「所有」の概念が薄れ、躊躇なくシェアして助けてくれた人たち。
ただ、ここは全員男。

時折現れる貯水槽。

この水で行水&洗濯。

寝場所は安定の橋の下。

カレー食べたし、身体も洗えてスッキリしたし、寝場所も広いし。
ハエは少しだけいるが気にならない程度。
蚊はいない。
若干標高が高いだけあって、日が沈むと心地良い涼しさ。
満天の星。

イエメン人のドライバーから水をいただいた。

イエメン人に出会うのは初めて。
行ってみたい国だが、長期の内戦で行けない。
「君を助けたい、何か必要なものは? 金は必要か?」とまで言われた。
なんじゃそりゃ。

あちこちでNEOM関連の工事がおこなわれている。
工事業者に声をかけられ、詰所で休んでいけと言われた。

なんとシャワーを浴びさせてもらえた。
それから食事も。

労働者はほぼ外国人、やはり南インド系が最も多い。
食事はカレーが定番のようだ。

皆、気さくに礼儀正しく僕に声をかけてくれる。
そしてこの詰所のチーフが、なんと日本人。
サウジアラビアに15年住んでいるらしい。
「自転車で来ました」と説明してもなかなか理解してもらえなかった。

寝場所はまた橋の下。

サウジアラビアの威信をかけた巨大プロジェクト、NEOM。

現在サウジアラビアの実質上のトップであるムハンマド皇太子による構想。
石油依存からの脱却に向け、広大な砂漠に超未来都市を一から構築する。

外国人観光客を拒んできたこの厳格な国が今になって開放路線に転じたのも若き皇太子ならではの判断、今僕がこうしてここで旅をできているのもこのおかげである。

THE LINEのエリアは近寄ることすらできないが、この界隈は常時無数のトラックが行き交っており、都市建設が進められている。
労働者はやはり外国人ばかり、もちろん全員男。

EVや自動運転やメタバースなんかも同様だが、ホントに実現可能なの?っていう不確定性が賛否両論の議論を起こし、注目を集め、そこにお金が流れ込む。
このNEOMも、他でもない石油の王者サウジが本気を出すということで、話題性としては十二分。
周囲の産油国、UAE、カタール、バーレーン、クウェートなどが産業多角化と観光化で脱石油を進めている中、サウジアラビアとしては生き残り戦略として他国にはマネできないインパクトのあることをやらざるをえないのだろう。

サウジアラビアは絶対君主制国家。
王族による専制。
厳格なのはイスラムの戒律だけではない、王族に逆らうような言動は粛清される。
ムハンマド皇太子は親日家で、新婚旅行でも日本を訪れたそうだ。

お次はシリア人からいただいた。

アカバ湾を抜けて本格的に紅海に出たが、道路はやや離れていて海は少ししか見えない。

日本の5.7倍の国土に、1本の川すら流れていない砂世界。
サウジアラビアは、世界最大規模の海水淡水化プラントを展開している。

サウジアラビアの至上命題は、脱石油と水確保。
今や人類共通のテーマだが、巨万の富を生む石油資源は世界トップクラスでありながら、生命にとって最も基本的な水資源がない、というなんとも極端な例。

海水を淡水化するには、莫大なエネルギーとコストと環境負荷がかかる。
脱石油を掲げておきながら、海水を淡水化するために毎日イギリス一国分以上の石油を燃やしているというジレンマ。
そして排出された高濃度廃塩水を海に流しており、ただでさえ塩分濃度が高い紅海がさらに高濃度になり、生態系に深刻なダメージを与える。
それでも生き抜くにはやるしかない。

日本は石油はなくとも水には恵まれていると思いがちだが、人口比で換算すると水に困らない国だとは決して言えない。
こういう国のリスクヘッジを見て、他人事だとは思わない方がいい。

ちなみに日本の原油輸入先の最大の国がサウジアラビア。
両国の関係は非常に良好、車は圧倒的にトヨタが人気のようだ。


Yanbu, Saudi Arabia

25016km (Total 161710km)



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