アウストラル街道 2 チャイテン→コヤイケ (Chile)
静寂。
静かだし、景色も良い。
ただ、結局またファームになってしまった。
ファームではすべての土地が私有地、フェンスが張りめぐらされてフリーキャンプは難しくなる。
水も、見た目は澄んでいても家畜の糞尿が混じっていそうで飲む気になれない。
舗装と未舗装が交互に現れる。
舗装路は比較的新しいのだろう。
交通量が少ないのできれいな状態で維持されている。
静寂。
標高600mほどの峠を越えて。
小さな街のキャンプ場で。
ミニスーパーの敷地の庭みたいなスペースをキャンプ場としている。
道路から丸見えで、防犯も何もない。
電源なし、Wi-Fiなし、水シャワー。
5000ペソ(766円)。
防犯はともかく、スーパーに来る客が買い物中に車のエンジンをかけっぱなしにするので、うるさくてかなわない。
とっとと全世界で全EV化してくれれば静かになるのに。
それから全自動運転化の時代が来てくれれば、煽り運転もなくなるしクラクションも全撤廃されるだろう。
爆音BGMも、迷惑以外の何物でもない。
どうして爆音BGMを鳴らすヤツって、どいつもこいつも似たようなドコドコ系の音楽になるんだろう?
南下するほど気温が下がるはずだが、逆に気温上昇。
夏到来ということだろうか。
なぜか17時ぐらいが最も暑く、この日はなんと25℃を超えた。
テントに日が当たるととても中にいられず、食料も悪くなりそうなので日陰に避難させる。
昼夜の寒暖差が激しいと、朝露が発生する。
テントも洗濯物も、朝になるとぐっしょりと濡れている。
どの街にもキャンプ場がある。
どこも道路から丸見え、防犯も何もない。
この日は誕生日。
ケーキのひとつでも買いたいところだが、あいにく小さな街のスーパーでそんな気のきいたスイーツなどない。
それでもいつもより食材を増やして奮発した。
旅先で誕生日を迎えるのは何度目だろう?
ずいぶんと年をとったものだが、世界一の超高齢化社会日本では、僕の年齢でもまだ平均より若い。
どう見たってもうオジサンなのに、平均年齢との比較だとまだ若年層、驚くべきことだ。
自分はいつ死ぬのだろう?
人生とっくに折り返しているものと思っていたけど、もし100歳まで生きるとしたら、まだ半分にも達していない。
確実に衰えゆく身体であと半分以上って、人間はやはり自然界ではありえない存在だ。
死ぬのは怖いけど、生き続けるという膨大な労力もまた恐ろしいものだ。
102歳まで生きた僕の祖母は、生き続けることの労苦をこぼしながらも、元気で幸せそうな一面も見せてくれていた。
地形が複雑すぎて、地図を見ないと海なのか湖なのか判別できない時もある。
これは海。
今までのキャンプ歴で、意外に海岸にテントを張るというのはほとんどなかった気がする。
誰もいない静かな海。
近くに小川が流れ、水にも困らない。
日はまだまだ長くなり、最近は21時ぐらいまで明るい。
翌日、雨。
すべてが順調と思いきや、雨。
もともと雨の多いこの地域で奇跡的に晴天続きだったが、やはりそう甘くない。
未舗装でドロドロになり、また標高600mほどの峠を越えた。
メンドーサで買ったトレッキングシューズは早くも浸水。
衣類もバッグも防水性を重んじて選んでいるが、長時間雨天走行するとどうしても靴と手袋が濡れてしまうという課題はいまだ解決できていない。
よほど極寒でなければサンダルシューズでもいいのだが、未舗装の峠越えとなるとそうもいかない。
雨に根負けして、宿に泊まってしまった。
部屋は個室、バスルームは共用。
歩くたびに床がギシギシときしむ。
25000ペソ(3836円)。
長旅の者にはありえない高額な宿代だが、暖炉で温まった屋内で、スブ濡れになった衣類や靴を乾かせた。
そして朝食が立派だった。
「もっと欲しい?」という宿のおばちゃんの言葉に、待ってましたとばかりに「うん! もっと欲しい!」、と許される限りおかわりさせてもらった。
これは湖。
かすかに、虹。
雨予報。
迫り来る雨雲にビビりながらも、なんとかこの日は雨から逃れられた。
広大なキャンプ場、客は僕ひとり。
この後、雨が降り出した。
ギリセーフ。
Wi-Fi小屋。
なんか避難小屋みたいでいいな。
ミニスーパーでスイーツ買った。
朝、霜が降りた。
氷点下。
テントも洗濯物も、バキバキに凍った。
冬到来か。
ガウチョ。
ガウチョとは、南米の中部から南部にかけて牛の放牧に従事する人々のこと。
いわば南米のカウボーイ。
ファームだなー。
ブラジル以来ずっと続いている南米のファーム地帯。
もうだいぶウンザリしている。
大自然が欲しい。
この区間はややバンピーな未舗装。
走行ペースは格段に落ちる。
とりあえず晴れてさえいれば良しとするか。
Coyhaique, Chile
8915km (Total 145609km)