ブライダー→リヤド (Saudi Arabia)
朝、走り始める。
背後が気になり、ちょいちょい振り返る。
もうついて来ないかな。
1時間後。
やっぱり、いる。
無言でついて来ている。
ついて来るにしても、ちけーんだよ。
なんでこんなすぐ真後ろにピッタリと。
最低でも1km以上離れて、こっちの意識の範囲外にいろや。
GSのサービスエリア。
男子トイレと女子トイレ、アラビア語がわからない者にはにわかに識別できない時もある。
とりあえず確認するため近づいたら、すかさずクラクションがブッと鳴る。
うるっせえなー。
ちょっと見りゃ男女の区別ぐらいつくよ。
こっちの一挙手一投足を監視してんじゃねえよ。
スーパーでパンを買い、座って食べる。
すかさずまた僕のすぐ真後ろに停車。
だから、ちけーんだよ。
なるべく視界に入れたくないので、常に背を向ける。
生まれてこの方、他人の気持ちなんぞ考えたこともないような鈍感野郎。
おまえ絶対女にモテないだろ、と言ってやりたくなるが、ここはそういう社会じゃなかった。
しばらくはハイウェイ走行せざるをえなかったが、途中からローカルロードで首都リヤドへと向かえる。
ローカルロードならもうついて来ないんじゃないか、と賭けてみる。
分岐で直進せず、ローカルロードへ逸れようとしたら、激しくクラクション。
もちろん無視していたが、拡声器で「ストップ! ストップ!」
うるっせーなー。
渋々停止すると、アホ面の警官が降りてきた。
「どこへ行く? リヤドへ行くなら直進だろ」
「うるせえ、関係ねえだろ」
相手が自分の予測と違う行動に出るとワーワー騒ぐ、頭の悪いやつの典型だ。
上司に電話。
僕にスマホを差し出して上司と話をしろと言ってきたが、お断り。
話すことなんて何もない。
アホ警官はしばらく上司と通話した後、偉そうに「OK 行け」
ローカルロードでもまだついて来る可能性はある。
最初の数分はついて来る気配があったが、やがて気配が消えた。
おそるおそる、背後を振り返る。
やったー!!!
消えたー!!!
いやー、うれしい。
ようやく自分の旅を再開できる。
ローカルロードは路面は荒れているものの、幅広の路肩あり、フラット。
ローカルロードでも小規模ながらGS、スーパー、モスクがそろうサービスエリアあり。
やるべきことをすませ、適当に道路下にもぐりこむ。
低すぎて立てないが、とにかく憑きモノが取れたことで気分爽快。
だいぶ日が短くなったな。
翌日。
大草原。
またあのミニスイカみたいなやつ。
農業もおこなわれているようで、時々小麦畑らしきものも見かける。
以前は地下の帯水層から汲み上げていたが、現在は海水を淡水化して農業用水としているようだ。
ハエ激増。
うっとうしいハエから解放されたと思ったら、本物のハエが群がってきた。
この日はこの謎の小屋に忍びこんで寝た。
サウジアラビアは野宿しやすいな。
また日本大好きだというサウジアラビア人から。
砂漠しかないようだが、小さな街が点在し、モスクも無数に現れる。
どのモスクにも水場があり、お湯が出るところもめずらしくない。
こんな砂漠の国でも、実はサウジアラビアは1人あたりの水消費量は世界平均の2倍で、日本よりもはるかに多い。
今まで旅した国との比較でいっても、こんなにもどこでも気軽に水が利用できる国はなかなかない。
野宿続きでも、今のところ毎日身体を洗えているし洗濯もしているし、水に困ることはない。
いずれ、海水淡水化による負荷のしっぺ返しが来るだろう。
小さな街を通過した時。
男性が僕に向かって手招きする。
行ってみると、カフェの中に連れこまれた。
英語は話せなさそうなサウジアラビア人。
僕のためのケーキとコーヒーを注文して会計をすませ、ニコニコと笑顔で「Very Good!」とだけ言って去って行った。
カッコよすぎだろ。
自分もこんな風にできるよう生まれ変われるだろうか。
チーズケーキとコーヒーは特にアラブテイストというわけではなく欧米的な味だったが、たまらなくおいしかった。
人にやさしくされると、見慣れたモスクもなんだかやさしいお顔に見えてきた。
国によっては、荘厳で威圧感さえある巨大なモスクがそびえるところもあるが、サウジアラビアのモスクは基本的には簡素。
日本の神社仏閣のような侘び寂びの美学、とはまた違うか、でも華美にならないよう抑制する力が作用しているのはたしかだと思う。
この日は最高の条件、広々として誰にも見られない橋の下で。
Riyadh, Saudi Arabia